大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和24年(控)1178号 判決

被告人

高山一郞こと

高重德

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人原田左武郞控訴趣意第三、四点は。

本件における山本、鶴山の逮捕は令状によるものでないから、公務の執行と言い得るかどうかにつき疑がある。逮捕の性格を十分に調べないで、漫然公務執行妨害と認定したのは審理不盡である。而してこの逮捕は、被告人に対する公務執行妨害罪の成立関係においては、違法である。(1)山本、鶴山両名は素直に任意同行を承諾している。從つて傍にいる者が多少騷いでも、同人等を緊急逮捕することはできない。即ちこの緊急逮捕は権利の濫用であつて被告人の公務執行妨害罪は成立しない。(2)また最初から緊急逮捕というのであれば、権利濫用の甚しいものである。緊急逮捕は、急速を要し令状を求める暇のないときに許されるものであるが、被告人宅から丸龜の裁判所えは直線距離二百米位である。容易に逮捕状を求め得るに拘らず、最初から緊急逮捕を行うのは人権無視の甚しきもので、一種の権利濫用であり、この際公務執行妨害罪の成立する余地がないというのである。

しかし原判決挙示の川崎利夫、田村繁敏の各証言、田村繁敏の当審公廷でした証言を綜合すると、司法警察員田村繁敏が外三名の刑事巡査を伴い、自轉車窃盜犯人吉田小彌太に対する逮捕状と被告人居宅の搜索差押令状とを持ち、判示の日被告人方に行き、右吉田を逮捕し、被告人の内縁の妻に令状を示して被告人居宅の搜索をして一旦本署に引揚げ、直ちに右吉田を取調べたところ、同人が自轉車は鮮人の鶴山と山本とが盜んだもので、その二人は被告人宅で自分の橫に居た者であり、自分は売却方を依賴されたに過ぎない旨供述したが、右両名は土地の者でなく住居不定で、己に吉田を逮捕したことが判つて居り、令状を求めてからでは間に合わないので直ぐ自動車で被告人方へ引返し、右両名を緊急逮捕したこと及び山本は逮捕に際し抵抗しなかつたが、鶴山は抵抗したので強制的に引致したことを認めるに十分である。即ち右両名に対する緊急逮捕はその要件において欠くるところはなく、逮捕に際し被疑者の抵抗すると否とは緊急逮捕の要件ではない。原審にはこの点に審理不盡の違法なく、論旨は凡て理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例